日本経済の中心地、東京・丸の内から“マル秘”財界情報をくわしくお伝えする『文藝春秋』の名物コラム「丸の内コンフィデンシャル」。最新号からダイジェストで紹介します。

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村上家に戦々恐々

 あの村上世彰氏の関係者がフジ・メディアHD(金光修社長)の株を大量に買い占めている。700億円近くを投じ、保有割合は約12%にも達する。

 2006年のインサイダー取引事件後、一旦は株の世界から足を洗った村上氏が舞い戻ったのは12年頃。シンガポールを拠点に、レノやシティインデックスイレブンスなど受け皿会社を駆使し、役員総入れ替えなどをちらつかせ、株買い占め先に法外な株主還元を要求。多くの会社が自社株TOBなどに応じ、村上氏は莫大な利益を上げてきた。今や運用資産は3000億円前後にも達する。

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村上世彰氏の運用資産は3000億円前後に達する ©文藝春秋

 当初は投資銀行出身の女性幹部らを重用していた村上氏だが、近年は家族経営の色が濃い。現在の右腕は長女の氏だ。慶應大を出て2年ほど外資系証券会社に勤めてから父と合流。同じく慶大を卒業し、ひと頃は買い占め先との交渉に同行していた次女・氏は、3年前からイメージアップ戦略を担う村上財団の代表理事を務めている。

オンライン会見でコスモエネルギーホールディングスへの株主提案について説明する、投資家の村上世彰氏の長女、絢氏(2023年) ©時事通信社

 そんな中で、注目の案件がある。養命酒製造(田中英雄社長)がそれだ。同社は大正製薬HD(上原茂社長)の庇護下にあったが、大正製薬の方針変更に伴い、約24%の株が放出された。買い取ったのは湯沢なる渋谷の会社。80億円近い取得資金の貸し手となった野村幸弘氏は、絢氏の夫である。

 一見、村上氏の投資戦略の一環にも映るが、そうとも言い切れない。関係者によると野村氏は村上氏の要求交渉の際にたびたび現れたこともある。ただ、湯沢は昨秋、村上氏の関係先を連想させる社名・シティインデックスキャピタルから名称を変更し、関係ビルからも転出した。過去に村上氏が、別働隊の存在を隠すなど、回りくどい手法をとった例しはなく、養命酒の件は野村氏によるまったく別の動きの可能性もある。

この続きでは、村上世彰氏の長男・貴輝氏の動向を分析しています〉

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3月号 経団連会長の本命と対抗、SOMPO櫻田氏の盲点、西川で社長交代のワケ、上場するのは貧乏人?
4月号 ローソン社長は誰に、みずほ信託の理系社長、三菱重工社長の「運」、郵政増田の後任候補
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6月号 LINEとヤフーの格差、小林製薬社外取の姿勢、東宝と松竹の明暗、MBOを狙う新手法
7月号 株価上昇で嘆く丸紅、社長の赤字を庇う会長、NTT人事の裏、暗雲垂れ込めるIR
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9月号 二大重工の明暗、金融庁が狙う生保代理店、大物起業家“石丸推し”のワケ、後味悪い“株買い占め”
10月号 パナ低迷の要因は、JTのジレンマ、日清創業家の責任、ドンキ世襲の行方は
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3月号 楽天ナンバー2の交代、貸金庫事件の余波、トヨタ会長活躍の裏で、パソナの世襲の行方
4月号 日産・社外取の思惑、魚谷氏のコンサル人脈、農林中金の退職金は、ヤマダ3人目の後継
5月号 岐路に立つ富士通、地銀再編の台風の目、農中が抱える爆弾、流通業の新旧交代

6月号 ​今回はこちら