昨年夏、大正製薬のグループトップが42年ぶりに交代した。この交代劇の背景と、その後に行われた臨時株主総会の様子とは……。月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」の連載「創業家サバイバル」から一部を紹介する。

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 創業家とは不思議な存在である。いかなる企業も誰かが始めたものであり、必ず創業者は存在する。だが、企業は成長とともにその姿を変える。生き物のように成長し、長らく生き続けるものもあれば、不幸にも消滅するものもある。経営者は自らの会社は“永遠に”と願う。創業者であればなおさらであろう。

42年ぶりのグループトップの交代劇

 大手製薬会社である大正製薬もその例に漏れない。2024年7月1日、事実上の創業家、大正製薬ホールディングス(HD)の上原明社長(83)が退任し、後任に長男の上原茂副社長(48)が昇格した。グループトップの交代は42年ぶりだ。

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新たにグループのトップとなった上原茂 ©時事通信社

 上原家は同社の「中興の祖」とされる3代目社長・正吉以降、歴代社長を輩出してきた。8代目の社長となる茂は、HD傘下の大正製薬の社長を2012年から務めてきた。一方、明は今回の人事でHD社長だけでなく、傘下の大正製薬の会長も退いた。

社長を退任した上原明 ©時事通信社

 大正製薬HDは経営陣による自社株買収(MBO)を行い、東京証券取引所(スタンダード市場)の上場が2024年4月9日付で廃止された。HD社長交代はまさにこのMBOと上場廃止を踏まえたもので、「中長期的な視点から抜本的かつ機動的な施策に取り組み、一定の事業リスクを伴う経営戦略を迅速かつ果敢に実行するため」(大正製薬HD)と説明されている。だが、MBOのプロセスについては一部株主から批判が噴出した。