円高株安リスクに投資家はどう対処するか。TMI総合法律事務所 特別顧問の緋田順氏、ピクテ・ジャパン シニア・フェローの大槻奈那氏、野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏、ソラリス・マネージメント CEOの戸矢博昭氏の、4人の有識者が語り合った。

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世界経済はどうなる?

 木内 景気に関して言うと、関税政策が仮に4、5カ月後には見直されたとしても、今回のショックの影響でアメリカは普通かやや軽微な景気後退に入る可能性が4~5割程度あるとみています。日本については6~7割程度の確率で景気後退に入ると分析しています。世界のGDPは1%弱程度下がるのではないでしょうか。

 過去の例でいうとコロナショックやリーマンショックの時には、世界のGDPは5~6%落ちているので、現時点ではそこまでのネガティブなダメージはなさそうですが、もし今後、「トランプ関税恐慌」などと名前がつくような危機があるとすると、二次的な危機として金融面の問題が大きく吹き出した場合でしょう。

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トランプ大統領 Ⓒ時事通信社

 大槻 ほぼ同じ見解です。ただ、今のところ、金融システムとそれに連なる財政に対してのショックの度合いは、そこまで高くはありません。2008年のリーマンショック以降、規制が厳しくなり、アメリカの金融システム全体も自己資本比率は当時より1.6倍くらいに上昇していますから、ある程度のショックには耐性はあると思います。過去100年の市場ショックの期間を調べると、金融システムや財政に波及しなかったケースでは、市場は1年以内に回復しています。

 木内 私は、ポイントはやはりアメリカ経済だと思っています。リーマンショック以降の長い低金利環境で、金融機関に過度のリスクテイクを生じさせている部分があり、金融面での不均衡や歪みが蓄積しているのが懸念材料です。例を挙げると、中堅銀行が商業用不動産向け貸出を大幅に増やしています。今後、景気悪化で不動産価格が下落すれば、不良債権問題が生じます。中堅銀行は中小銀行へのレバレッジド・ローンも拡大してきましたが、そこにも焦げ付きが広がる恐れがあります。

石破茂首相 Ⓒ時事通信社

 このようなアメリカの抱える金融問題が表出してくると、モデル計算のような軽微な景気後退では済まない可能性が出てきます。そうなれば、リスク回避で急速な円高株安になることも起こるでしょう。

 戸矢 政策によって起きた混乱ですから、アメリカの政策当局が米国債やドルの暴落、金融システムへの波及を阻止すると思いますが、リーマンショック時のような計算違いがないといいのですが。日本は「もらい事故」での超円高や国債暴落になる芽を早めに摘むことが大事です。市場安定化のためには強力な手立てをとる姿勢を、市場参加者によく分からせる必要があるのではないでしょうか。安定性という日本の差別化要因が失われないことを願っています。