マネーフォワードを創業し、代表取締役社長を務める辻庸介氏。辻氏は自身の転機として、MBA留学を挙げた。アメリカで経験した出来事とは……。

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 私は京都大学農学部の出身で、バイオテクノロジーの分野で研究者になろうかと考えていた時期もありました。しかし、学生時代に仲間と小さな学習塾を経営したことがきっかけでビジネスの楽しさに目覚めたのです。24歳でソニーに就職しましたが、初めての配属は全く希望していなかった経理部。3年目に社内公募があり、ソニーが出資するマネックス証券に出向し、松本大(おおき)社長(当時)の隣で働きました。

 その後、マネックス証券に転籍。そこで、やっぱりビジネスの勉強を本格的にしたいと思ったんですね。33歳の時、ペンシルベニア大学ウォートン校へMBA留学をしました。

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英語力はクラスのほぼ最下位

 MBA取得の課程で鍛えられたのは、実は「ストレス耐性」でした。チームでカリキュラムに取り組むことも多かったのですが、このチームはダイバーシティが生まれるように組まれていた。国籍や経歴など属性が違う多様な人たちでチームが構成されていて、わざと摩擦が生まれるように設計されていたんです。

辻庸介氏 Ⓒ文藝春秋

 チームには私みたいな英語が下手な年長のアジア人もいれば、アメリカ陸軍のエリートや、NPOを立ち上げ米国最大級の組織に育て上げた女性もいました。みんなプライドが高く、鼻っ柱も強い。意見はバラバラでぶつかり合うばかりでした。

 しかし、協力して良いアウトプットをしなければ個々人の成績に響きます。下位10%の成績、通称「LT(ロウエスト10%)」を5単位とると退学処分になってしまう。さらにはMBAの成績は将来のキャリアデザインにも関わってきます。だからみんな必死です。

 授業の一つに「ケーススタディ」というものがありました。実在する企業の事例を勉強するのです。例えば、トヨタの「カイゼン」が課題に挙げられたとします。製造現場での作業効率や安全性の向上を目指すために現場のスタッフが自ら問題点を見つけてボトムアップで改善していくというメソッドですが、具体的にどういう課題があり、彼らはどのように解決したかについて、膨大な英語のテキストを事前に読んできて、自分たちだったらどうするかなどについてディスカッションをする。